
農地の売却は、一般的に難しいといわれがちです。その背景には、さまざまな理由が複合的に絡み合っています。そこで本記事では、農地の売却が難しいといわれている理由や使わない農地を売却する方法を詳しく紹介します。農地を高く・早く売るコツも合わせて紹介するので、ぜひご一読ください。
農地の売却が難しいといわれている理由
農地売却が難しいといわれる主な理由は、法的規制と市場環境の両面にあります。
農地法による制限
まず、農地法により農地の購入者は「農業委員会の許可を受けた農家」に限られており、誰でも自由に農地を購入できるわけではありません。これは、国民への安定的な食料供給を確保する目的で設けられた制限であり、農業従事者や農業法人などが対象とされています。
そのため、農業を始めたい一般の人がすぐに農地を取得するのは困難です。ただし、令和5年4月の農地法改正により、一定の条件を満たせば農家以外の個人でも農地を取得できるようになりました。
これにより農地の有効活用が期待されていますが、依然として都市部への人口集中の影響で地方の農地の需要は低く、買い手が見つからないケースも多いのが現状です。
また、農地を宅地や商業用地に変更する「農地転用」には農業委員会の許可が必要で、自由に転用できるわけではありません。とくに「農用地区域内農地」や「甲種農地」などは、農業に適した土地とされており、厳しい規制のもとでしか転用が認められません。
ニーズが低い
さらに、農業従事者の高齢化と減少により農地の需要そのものが下がっており、価格も下落傾向にあります。2020年には基幹的農業従事者のうち65歳以上が70%を占め、若年層の参入が進んでいないことも、売却を難しくする要因となっています。
使わない農地を売却する方法
使わない農地を売却するには「農地のまま売却する」方法と「農地転用して売却する」方法の2つがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、農地の状況や売却の目的に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
農地のまま売却する方法
農地のまま売却する場合、転用の手続きが不要で手間が少なく、農業を続けたい人にとっては一定の需要があります。しかし、農業従事者の高齢化や農地需要の減少により、買い手が見つかりにくく、売却先は農業委員会の許可を受けた農業従事者や法人に限られます。そのため、売却が長期化する可能性が高いです。
ただし、2023年4月の法改正により「下限面積要件」が撤廃されました。これにより、条件を満たせば個人でも農地を取得できるようになり、売却の可能性は広がっています。買主を見つけるには、近隣農家への声かけやJA、農業委員会、不動産会社への相談が有効です。
農地転用して売却する方法
一方、農地転用して売却する方法では、宅地や商業用地として一般の不動産市場で売ることが可能です。これにより買主が見つかりやすく、高値で取引できる可能性もあります。転用には農業委員会の許可が必要で、申請手続きや工事などの負担があります。
さらに、すべての農地が転用できるわけではなく、第2種農地、第3種農地、市街化区域内の農地などに限られる点に要注意です。第1種農地や甲種農地などは、原則として転用できません。
農地を高く・早く売るコツ
農地をより早く、かつ高く売却するためには、いくつかの工夫と準備が必要です。
情報収集・スケジュール管理の徹底
まず大切なのは、情報収集とスケジュール管理を徹底することです。農地の売却は、一般の不動産とは異なり、買主が限られていたり農業委員会の許可が必要だったりするため、売却に時間がかかる傾向があります。
場合によっては、売却完了まで1年以上かかることもあります。また、買主が早く見つかっても、手続きの遅れで売却時期がずれ込むこともあるため、余裕を持ったスケジュール設定が重要です。
農地を良い状態に保つ
次に、農地を良い状態に保つことも高値売却のポイントです。管理を怠ると雑草が生い茂ったり、不法投棄される恐れがあり、見た目の悪化が買主の印象を下げ、売却価格に悪影響を与えます。とくにゴミなどが放置されていると、処分費用を所有者が負担しなければならなくなるため、定期的な手入れが欠かせません。
売却時期を考慮する
また、売却時期については、取得から5年以上経過しているかどうかも重要です。
譲渡所得税の面で、所有期間が5年以上であれば「長期譲渡所得」として20.315%の税率が適用されますが、5年未満だと「短期譲渡所得」として39.63%に引き上げられ、税負担が大きくなります。
そのため、売却を急いでいない場合は、5年以上保有してから売ることを検討すると節税につながります。
複数の不動産会社に査定依頼を出す
さらに、複数の不動産会社に査定を依頼することも有効です。1社だけの査定では適正価格の判断が難しく、場合によっては相場を大きく外れた価格で売りに出してしまうリスクがあります。
とくに媒介契約を獲得したい不動産会社が、実際より高い査定額を提示することもあるため注意が必要です。こうした場合、最終的には価格を下げざるを得ず、売却までの期間も長引くことがあります。適正価格での売却を実現するためにも、複数社からの査定を比較し、信頼できる業者を選びましょう。
まとめ
農地の売却は、法的な制限や需要の低さなどから一般の不動産と比べて難しいとされがちです。しかし、最近の法改正により売却のチャンスは広がっており、農地を有効に活用したい人にとっては好機ともいえます。売却を成功させるには、情報収集とスケジュール管理を徹底し、農地を良好な状態に保つことが重要です。また、節税を見据えた売却時期の見極めや、複数の不動産会社への査定依頼も高値売却のカギとなります。農地の特性を理解し、的確な方法を選択することで、スムーズで納得のいく売却が実現できるでしょう。